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江木先生の米国に赴任するを「送」るの序 |
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井上良一氏より達せられる。 |
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師友の義有り。 |
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兄弟之を競う。 |
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而して良一氏と江木先生との交情は、頗る密なり。 |
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因って先生に聞くを得たる也。 |
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先生の人と為(な)りや、先生宕聞博識具有して之を為す。 |
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聞くならく、景慕に達すること久し矣。 |
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嘗つて一見して之の温かみを得るか。 |
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其の言は憐れむが如く、真愚は凛たる乎(か)。 |
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其の言は、其の蒙を発し、其の薀する所を窺う無きが如し。 |
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際涯有り。 |
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而して、其の家に遇して、競うて教誨を受け、頑固の疾を醫し得たり。 |
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果して聞く所に違わず。 |
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先生曾つて海外に遊び、虚往いて實に帰す。 |
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官に在りて盡さざる所、暇あれば則ち、衆を集めて世務を演説し、人びとをして向う所を知らしめ、感悟する者少なからず。 |
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今玆に朝廷先生を擢んでて外務省一等書記官と為し、米国華盛頓府(ワシントン)に遣わさる。 |
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先生の榮亦大矣(なり)。 |
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達の海外諸国の形勢を通観するに、之を占する高第者莫(な)し。 |
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若(も)し白人の制度文物より、百工技藝に及びて、不善の美無し。 |
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然して異教の国に対するに至れば則ち、稱(たた)えざる者有り。 |
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苟くも西教の国を奉ぜず。 |
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乃ち目に野蛮国と曰(い)い、未開国と曰(い)う耳(のみ)。 |
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西教を奉じ、口に万国公法を稱(とな)えて、其の為す所の者、之に反して惟(ただ)利己在る而已(のみ)。 |
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甚だしきに至れば、則ち野蛮未開の人民を待つと曰(い)うに至りては、奚(いずく)んぞ公法を以ってなさんや。 |
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是に於て、陽に宗教を貴(とおと)び、自ら正行を誇り、東西に跋扈して、人の国を侵し、人の物を奪う。 |
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強いて、以って弱衆を夾(はさ)み、以って寡に迫り、狡猾残賊至らざる所無し。 |
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我れの有理を之れ責む可き乎(か)。 |
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彼の者をして或いは、勢有りて為す可からざる者か。 |
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嗚呼、開化の人民たる者、果して此の如き乎(か)。 |
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是に由って之を観れば、方今の国家の大事は、外邦の通好に莫(な)し。 |
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若(も)し、先生朝命を奉じ北米聯邦に赴任さる。 |
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先生の任、重しと謂う可き也。 |
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然りと雖も、公使其の上に在り、吏族其の下に在り。 |
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先生の徳は、吏属の服するを以って足り、公使の賢は庸(つね)の先生を以って足る。 |
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重任なりと雖も、不足し難き者有り。 |
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況んや米人の性は重く、公道は貴(たっと)きと為す。 |
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和平は稍、歐人には異有る者乎。 |
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達謂すれば、先生久しく米国に在り、其の国の俗に熟し、彼をして我の進化の昔日に十倍すること有るを知ら使む。 |
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而して、益々和親を鞏固にするの真情は固(もと)より、疑いを容れざる也。 |
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抑々又米人をして、此の如き暴慢無厭の歐人亦自ら漸愧し、敢えて我を凌侮せざるに至るは、豈其れ遠くに在らん哉。 |
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先生に達するは一朝の交に非ず。 |
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故に當(まさ)に其の書を行なうに当り、達の先生に望む所の者、序と為して以って之を送ると云う。 |