書「送 江木君晋戈叙」　００１５８

武富定保 書 天保８年（１８３７年） ３０.４ × ４６ cm

↓「送 江木君晋戈叙（１／５）

 

↓「送 江木君晋戈叙（２／５）

 

↓「送 江木君晋戈叙（３／５）

 

↓「送 江木君晋戈叙（４／５）

 

↓「送 江木君晋戈叙（５／５）

 

 

↓読み（１／５）

１２ 遊 必 相 伴 以 為 世 無 改 。 此 １１ 降 作 文 必 相 質 事 必 相 謀 １０ 而 施 諸 世 者 也 。 余 乃 相 見 心 ０９ 侗 葊 先 生 。 將 以 優 其 所 得 ０８ 於 山 ： 陽 ： 頼 ： 氏 ： 。 今 又 薫 陶 於 ０７ 経 ： 理 ： 以 補 所 不 足 。 其 初 鍛 錬 ０６ 能 文 。 喜 論 時 ： 務 ： 。 且 欲 研 究 ０５ 江 木 君 晋 戈 在 同 窻 。 篤 學 ０４ 侗 ： 葊 ： 劉 ： 先 生 之 門 。 備 後 福 山 ０３ 天 ： 保 ： 乙 ： 未 ： 之 冬 余 遊 江 戸 及 ０２ 江 ： 木 ： 君 ： 晋 ： 戈 ： 叙 ０１ 送

 

↓読み（２／５）

２４ 托 於 　 　 義 兄 。 未 嘗 有 内 顧 ２３ 非 　 晋 戈 之 志 也 。 況 初 依 ２２ 遊 以 飽 其 學 矣 。 而 今 如 此 是 ２１ 久 之 。 葢 　 　 晋 戈 之 帰 將 再 ２０ 作 叙 以 送 焉 。 余 視 其 書 歎 息 １９ 赴 音 。 寄 書 謝 諸 友 且 乞 。 遂 １８ 晋 戈 投 袂 而 歸 。 及 浪 華 聞 １７ 義 兄 五 ： 十 ： 川 ： 君 ： 篤 ： 悦 ： 疾 篤 １６ 今 茲 丁 ： 酉 ： 四 月 其 家 以 書 告 １５ 嫌 與 余 約 相 ： 礪 ： 以 至 於 有 来 。 １４ 不 及 矣 。 　 晋 戈 亦 不 以 異 同 １３ 篤 學 恐 未 能 超 乎 三 者 之 所

 

↓読み（３／５）

３６ 世 變 庶 ： 幾 ： 乎 。 古 聖 賢 之 域 ３５ 然 則 夫 所 以 通 達 人 情 窮 ３４ 未 如 親 ： 受 ： 。 諸 其 身 之 切 也 。 ３３ 肥 ： 痩 ： 痛 ： 癢 ： 非 観 而 不 憂 。 而 ３２ 親 施 諸 其 家 。 譬 猶 他 人 之 ３１ 諸 其 身 嘗 欲 施 於 世 者 今 ３０ 於 古 人 而 感 激 者 今 親 観 ２９ 定 者 也 。 　 　 晋 戈 之 嘗 観 ２８ 益 志 必 屈 ： 撓 ： 輮 ： 衂 ： 而 後 堅 ２７ 人 之 智 必 惨 ： 怛 ： 聳 ： 動 ： 而 後 増 ２６ 諸 一 身 。 其 為 應 何 如 也 。 然 ２５ 之 忠 而 今 遽 以 家 累 負 ： 擔 ：

 

↓読み（４／５）

４８ 以 偸 ： 通 ： 者 也 。 　 　 晋 戈 隆 ４７ 衷 家 淺 ： 見 ： 陋 ： 識 ： 依 ： 連 ： 便 ： 捷 ： 。 ４６ 強 ： 解 ： 者 也 。 又 非 如 所 謂 折 ４５ 虚 ： 謬 ： 執 ： 滞 ： 禀 ： 合 ： 抉 ： 裂 ： 以 ４４ 以 苟 得 者 也 。 又 非 如 所 謂 経 ： 生 ： ４３ 文 人 。 擿 ： 辭 ： 證 ： 事 ： 掩 ： 襲 ： 探 ： 捉 ： ４２ 旨 深 ： 奥 ： 純 至 非 如 世 之 所 謂 ４１ 周 乎 。 宇 宙 之 大 故 雖 一 言 之 ４０ 世 變 内 晰 乎 。 性 命 之 凝 外 ３９ 睿 ： 明 ： 厚 實 通 達 人 情 窮 ３８ 未 肯 ： 盡 ： 雷 ： 同 ： 。 以 為 古 之 聖 賢 ３７ 親 厚 矣 。 然 獨 至 於 論 経 理

 

↓読み（５／５）

５９ 　 　 　 西 ： 肥 ： 武 ： 富 ： 定 ： 保 ： 拝 具 ５８ 盡 日 ５７ 天 保 八 年 歳 次 丁 酉 五 月 ５６ 者 矣 。 請 叙 此 以 験 於 他 日 ５５ 之 所 論 必 將 無 余 之 不 肯 ： 同 ： ５４ 叩 其 所 得 而 己 。 則 　 晋 戈 ５３ 舟 於 鞆 ： 浦 ： 訪 福 山 之 居 而 ５２ 能 同 窻 以 相 礪 。 但 有 及 帰 舎 ５１ 晋 戈 庸 ： 詎 ： 永 備 哉 。 余 既 不 ５０ 而 得 諸 今 日 之 憂 矣 。 ４９ 者 必 將 不 得 諸 前 日 之 學 而 。

 

↓読み下し（１／５）

１２ 此 の 篤 学 は 恐 ら く 未 だ 超 ゆ る 能 あ た わ ざ る か 　 第 三 者 の 及 ば ざ る 所 な り 　 　 事 は 必 ず 相 謀 は か り 　 遊 ぶ に は 必 ず 相 伴 い 　 以 っ て 世 の 為 に 改 む る こ と 無 し １０ 余 乃 す な わ ち 相 見 ま み え て 心 降 く だ り 　 文 を 作 る に は 必 ず 相 質 た だ し ０９ 将 ま さ に 優 を 以 っ て 其 の 所 得 と し て 諸 々 の 世 の 者 に 施 す 者 な り ０８ 今 又 侗 庵 先 生 に 於 い て 薫 く ん 陶 と う さ る ０７ 其 の 初 め は 山 陽 頼 氏 に よ り 鍛 た ん 錬 れ ん す ０６ 且 つ 経 理 を 研 究 し 以 て 足 ら ざ る 所 を 補 わ ん と 欲 ほ っ す ０６ 時 務 を 論 ろ ん ず る を 喜 ぶ ０５ 篤 学 に し て 文 を 能 よ く す ０４ 備 後 福 山 の 江 木 君 晋 し ん 戈 か 　 同 窓 に 在 り ０３ 天 保 乙 未 六 年 の 冬 余 江 戸 に 遊 び 侗 と う 庵 あ ん 劉 先 生 の 門 に 及 ぶ ０１ 江 木 君 晋 戈 を 送 る の 叙 じ ょ

 

↓読み下し（２／５）

２４ 未 だ 嘗 っ て 内 に 有 っ て 之 を 顧 か え り み 　 忠 に し て 今 遽 に わ か に 家 累 の 負 擔 を 以 っ て 諸 れ を 一 身 に す る ２３ 況 い わ ん や 初 め 義 兄 に 托 さ る る に 依 る ２２ 而 し て 今 此 か く の 如 き 　 是 は 晋 戈 の 志 こ こ ろ ざ し に 非 ら ざ る な り ２１ 蓋 け だ し 　 晋 戈 の 帰 り 将 に 再 遊 せ ん と す る 時 　 以 っ て 其 の 学 に 飽 き た り ２０ 余 其 の 書 を 視 み て 　 歎 た ん 息 そ く す る こ と 久 し う す １９ 遂 に 叙 じ ょ を 作 り て 以 っ て 送 る な り １９ 書 を 寄 せ て 諸 友 に 謝 し ゃ し 　 且 つ 乞 う １８ 浪 な に 華 わ に 及 び 訃 音 を 聞 く 　 義 兄 五 十 川 君 篤 悦 　 疾 や ま い 篤 あ つ し と 　 晋 戈 袂 た も と を 投 じ て 帰 る １６ 今 茲 こ こ に 天 保 丁 酉 八 年 四 月 　 其 の 家 よ り 書 を 以 っ て 告 ぐ 　 　 余 と 相 そ う 礪 れ い を 約 し 　 以 っ て 来 る 有 る に 至 る １４ 晋 し ん 戈 か は 亦 ま た 異 同 を 以 っ て 嫌 い や が ら ず

 

↓読み下し（３／５）

３６ 古 聖 賢 の 域 に 親 し ん 厚 こ う す る な り ３５ 然 し か ら ば 則 す な わ ち 夫 そ れ 人 情 に 通 達 す る 所 ゆ え ん 以 は 　 世 の 変 を 窮 む る に 庶 ち 幾 か か ら ん か ３４ 諸 こ れ 其 の 身 の 切 る る な り ３３ 而 し て 未 だ 親 し ん 受 じ ゅ の 如 く な ら ず ３２ 譬 た と え ば 猶 な お 　 他 人 の 肥 ひ 痩 そ う 痛 つ う 癢 よ う の ご と く し て 　 観 て 憂 え ざ る に 非 ず 　 　 嘗 っ て 世 に 施 さ ん と 欲 す る 者 　 今 親 し く 諸 こ れ を 其 の 家 に 施 す ２９ 晋 戈 の 嘗 っ て 古 人 を 観 て 　 感 激 す る 者 は 　 今 親 し く 諸 こ れ 観 る に 　 其 の 身 は ２８ 必 ず 屈 く っ 撓 と う 輮 じ ゅ う 衂 じ ん し て 而 し て 後 　 堅 く 定 ま る 者 な り ２６ 然 り 　 人 の 智 は 必 ず 惨 さ ん 憺 た ん 聳 し ょ う 動 ど う し て 後 　 益 々 志 を 増 す ２６ 其 れ 應 ま さ に 何 如 に せ ん と 為 な す や

 

↓読み下し（４／５）

４８ 晋 戈 の 隆 さ か ん な る 者 は 　 必 ず 将 に 諸 こ れ の 前 日 の 学 が く 而 じ を 得 ず ４８ 以 っ て 偸 通 す る 者 も の 也 ４６ 又 所 謂 折 衷 家 の 浅 見 　 陋 ろ う 識 し き 　 依 連 　 便 べ ん 捷 し ょ う す る が 如 き に 非 ず ４５ 以 っ て 強 き ょ う 解 か い す る 者 な り ４４ 又 所 い わ 謂 ゆ る 経 け い 生 せ い 　 虚 き ょ 謬 び ゅ う 　 執 し つ 滞 た い 　 禀 り ん 合 ご う 　 抉 け つ 裂 れ つ す る 如 き に 非 ず ４３ 擿 て き 辞 じ 　 証 し ょ う 事 じ 　 掩 え ん 襲 し ゅ う 　 探 た ん 捉 そ く し 　 以 っ て 苟 い や し く も 得 る 者 な り ４１ 宇 宙 の 大 な る は 　 故 か れ 一 言 の 旨 む ね と 雖 も 深 奥 は 純 に 至 り て 　 世 の 謂 い わ ゆ る 文 人 の 如 く に 非 ず ４０ 性 せ い 命 め い の 外 周 に 凝 る か ３８ 以 っ て 古 の 聖 賢 の 睿 え い 明 め い と 爲 し 　 実 に 厚 く 人 情 に 通 達 し 世 変 を 窮 め 内 に 晰 あ き ら か に す る か ３７ 然 る に 独 り 経 理 を 論 ず る に 至 り て は 　 未 だ 肯 こ う 尽 じ ん 雷 同 せ ず

 

↓読み下し（５／５）

５９ 　 　 　 西 肥 　 武 た け 富 ど み 定 保 拝 具 ５７ 天 て ん 保 ぽ う 八 年 五 月 末 日 ５６ 叙 じ ょ を 請 う は 　 此 を 以 っ て 他 日 に 験 せ ん と す ５４ 則 ち 晋 戈 の 所 論 必 ず 将 に 　 余 の 肯 同 せ ざ る 者 は 無 き な り ５３ 福 山 の 居 を 訪 ね 　 而 し て 其 の 得 る 所 を 叩 た た く の み ５２ 但 た だ 帰 舎 の 舟 が 鞆 の 浦 に 及 ぶ 有 り ５１ 余 既 に 同 窓 を 以 っ て 相 礪 は げ ま す 能 あ た わ ず ５１ 晋 戈 は 庸 よ う 居 き ょ し 永 く 備 え ん や ５０ 而 し て 諸 こ れ 　 今 日 の 憂 を 得 る な り と

 

 

大　意

 

↓姓名印	↓雅号印
定 武 保 富	遺 有 民 明

 

↓遊印

古 今 人 人 与 與 稽 居

 

訳　注
０２	江木君	江木鰐水のこと
０２	晋戈（しんか）	江木鰐水の字
０３	天保乙未（てんぽう・きのと・み）	ここでは天保６年（１８３５年）のこと
０４	侗葊（とうあん）	＝侗庵、古賀侗庵のこと
０４	劉（りゅう）	古賀家の本姓
０６	時務（じむ）	当世の仕事・政治、またその時代になすべき仕事、時に応じたつとめ
０７	経理（けいり）	経書の道理、不変の真理
０８	山陽頼氏	頼山陽のこと
１５	相礪（あいれい）	みがき合い
１６	丁酉（かのと・とり）	ここでは天保８年（１８３７年）のこと
１７	五十川君篤悦	江木鰐水の義父
２５	負擔（ふたん）	＝負担、背におい、肩にかつぐ、身に引き受ける
２７	惨怛（さんたん）	＝惨憺、悲しみいたむ、いたましいさま
２７	聳動（しょうどう）	恐れ動くこと
２８	屈撓（くっとう）	まがりたわむこと
２８	輮衂（じゅうじん）	輮はおおう、衂ははなぢ
３３	肥痩（ひそう）	こえるとやせる
３３	痛癢（つうよう）	いたいとかゆい
３４	親受（しんじゅ）	親しく受ける
３６	庶幾（しょき）	近い、こい願う、望み願う、希望する、賢人をいう
３８	肯盡（こうじん）	＝肯尽、うべないつくす
３８	雷同（らいどう）	みだりに他人の説に従う
３９	睿明（えいめい）	＝睿哲、すぐれてさとい
４２	深奥（しんおう）	奥ふかい、奥そこ
４３	擿辞（てきじ）	辞をなげうつ
４３	證事（しょうじ）	事を証す
４３	掩襲（えんしゅう）	不意をおそう
４３	探捉（たんそく）	探りとらえる
４４	経生（けいせい）	世の中を治める
４５	虚謬（きょびゅう）	むなしいあやまり
４５	執滞（しつたい）	堅く一事に執心して他事に移らないこと
４５	禀合（りんごう）	－
４５	抉裂（けつれつ）	えぐりさける
４６	強解（きょうかい）	しいて解釈すること
４７	浅見（せんけん）	低い見識、浅はかな考え、自己の見識・考えの謙称
４７	陋識（ろうしき）	いやしい知識
４７	依連（いれん）	たより連なる
４７	便捷（べんしょう）	すばやいこと
４８	偸通	おざなりを通す
５１	庸詎（ようきょ）	なんぞ、なんすれぞ、いずくんぞ、何を以って
５３	鞆浦	備後の鞆港
５５	肯同（こうどう）	－
５９	西肥（せいひ）	佐賀県、長崎県の旧国名、肥前
５９	武富定保	－
◎	◎	◎
６０	（姓名印）武富定保 （たけどみ・さだやす）	－
６０	（雅号印）有明遺民	－
６０	（遊印）今人與居古人与稽	－

 

未装

出典１：『大日本古記録 江木鰐水日記上下』、東京大学史料編纂所編纂、岩波書店刊、昭和２９～３１年