書「送 江木君戩序」　００２０８

宮部貞 書 天保８年（１８３７年） ３０.４ × ４５ cm

↓「送 江木君戩序」（１／４）

↓「送 江木君戩序」（２／４）

↓「送 江木君戩序」（３／４）

↓「送 江木君戩序」（４／４）

↓読み（１／４）

１２ 餘 遽 而 家 書 飛 報 。 其 兄 五 ： 十 ： 川 ： 義 ： 集 ： 疾 病 １１ 成 孰 為 不 成 乎 。 　 江 木 君 晋 戈 在 東 歳 １０ 不 及 仲 尼 門 。 然 則 得 師 與 不 得 孰 為 ０９ 千 之 徒 仲 ： 尼 ： 不 能 皆 顔 曽 之 。 而 孟 ： 軻 ： ０８ 孔 ： 師 之 吾 未 知 其 果 成 乎 。 否 也 。 是 以 三 ０７ 則 六 ： 経 ： 以 師 也 。 苟 為 不 篤 不 敏 雖 得 周 ： ０６ 自 成 而 愚 者 不 能 而 己 。 其 信 之 篤 求 之 敏 ０５ 豈 信 良 于 彼 而 不 良 于 此 乎 。 賢 者 能 ０４ 師 常 良 于 賢 弟 子 而 不 良 于 愚 者 也 。 ０３ 道 不 必 以 得 於 。 師 而 成 乎 。 自 成 之 故 ０２ 　 江 ： 木 ： 君 ： 晋 ： 戈 ： 序 ０１ 　 送

↓読み（２／４）

２４ 然 而 一 旦 局 促 纏 ： 綿 ： 豪 累 其 為 恨 可 ２３ 驅 天 下 。 非 明 一 経 通 一 藝 。 沾 ： 々 ： 自 喜 者 也 ２２ 寝 安 席 。 其 志 欲 必 與 群 傑 並 駕 馳 ２１ 不 得 則 更 互 論 ： 薢 ： 自 昏 ： 達 晨 ： 未 嘗 ２０ 聖 意 之 所 在 。 排 曲 説 一 帰 正 。 或 有 １９ 言 論 軽 義 則 必 原 人 情 順 天 理 以 求 １８ 所 為 喜 作 文 章 最 用 力 六 経 及 折 衝 １７ 別 。 一 言 以 贈 我 乎 。 吾 嘗 観 　 晋 戈 之 １６ 言 。 遭 家 多 難 轅 ： 不 可 復 東 。 遂 為 長 １５ 非 晋 戈 無 ○ 視 之 者 。 於 是 乎 致 書 有 １４ 則 己 斂 葬 。 寡 婦 幼 姪 不 能 挙 遺 業 。 １３ 委 床 命 不 保 。 夕 乃 投 巻 軽 装 訪 疾 。 至

↓読み（３／４）

３６ 不 變 者 也 。 其 衣 服 粗 承 不 甚 修 。 客 ３５ 父 務 踏 其 説 最 長 於 論 策 。 是 其 ３４ 不 遺 。 是 其 典 先 師 變 者 也 。 其 相 詩 ３３ 明 清 諸 儒 之 言 把 ： 羅 ： 剔 ： 抉 ： 孫 毫 ３２ 甚 ： 醉 ： 。 晋 戈 則 尊 志 於 講 習 至 ３１ 生 詩 文 標 ： 率 ： 相 一 代 而 於 経 不 求 ３０ 天 也 夫 智 長 於 變 學 成 相 變 。 山 陽 先 ２９ 變 也 。 晋 戈 焉 余 以 變 合 今 又 以 變 離 。 ２８ 共 黌 切 瑳 相 成 乎 。 師 之 歿 弟 子 莫 大 之 ２７ 其 来 東 應 乎 。 縦 今 能 来 豈 與 我 同 席 ２６ 頼 ： 先 ： 生 ： 學 。 先 生 歿 而 東 。 先 生 而 不 歿 ２５ 何 可 測 也 。 晋 戈 初 従 京 師 山 ： 陽 ：

↓読み（４／４）

４６ 天 ： 保 ： 丁 ： 酉 ： 五 月 蓮 ： 池 ： 宮 ： 部 ： 貞 ： 拝 撰 ４５ 東 。 而 無 所 師 乎 。 遂 書 以 贈 其 歸 。 ４４ ○ 六 経 則 有 餘 師 。 猶 何 恨 。 轅 不 可 ４３ 年 之 功 所 得 已 多 矣 。 其 有 不 盡 者 求 ４２ 才 聰 明 之 資 而 信 之 篤 求 之 敏 。 十 數 ４１ 旦 三 十 未 知 家 之 有 己 。 況 以 卓 ： 犖 ： 之 ４０ 逆 ： 旅 ： 者 又 此 資 之 兄 。 兄 亦 楽 為 之 。 年 ３９ 不 然 。 挙 家 托 兄 而 于 衣 于 食 凡 費 於 ３８ 食 不 得 従 事 。 此 者 ○ ○ ○ 然 。 晋 戈 則 ３７ 勝 言 乎 。 雑 然 人 處 窮 ： 約 ： 終 日 役 之 衣 奔 走

 

↓読み下し（１／５）

１２ 其 の 兄 五 い 十 か 川 が わ 義 集 の 病 疾 に よ り 床 に 委 し て 命 保 た ず １１ 江 木 君 晋 戈 　 東 に 在 る こ と 歳 餘 　 遽 す み や か に し て 家 書 の 飛 報 あ り １０ 然 ら ば 則 り 　 師 を 得 る と 得 ざ る と 　 孰 い ず れ か 成 を 為 し 　 孰 い ず れ か 成 ら ず と 為 す か ０９ 而 う し て 孟 も う 軻 か は 仲 尼 に 及 ば ず ０８ 否 い な 也 な り 是 を 以 っ て 三 千 の 徒 は 　 仲 ち ゅ う 尼 に は 皆 の 顔 を 之 を 曽 す る こ と 能 わ ず 　 　 周 孔 之 を 師 と す る を 得 ば 　 吾 未 だ 其 果 成 を 知 ら ざ ら ん か ０７ 苟 い や し く も 篤 な ら ず 敏 な ら ず と 為 す と 雖 も ０６ 其 の 之 を 信 ず る 事 篤 く 　 之 を 求 む る 敏 な れ ば 則 ち 六 り く 経 け い は 以 っ て 師 と す る な り ０５ 賢 者 は 能 よ く 自 ら 成 し て 　 愚 者 は 能 く せ ざ る の み ０５ 豈 彼 に 良 き を 信 じ て 　 此 に 良 か ら ざ ら ん か ０３ 自 み ず か ら 之 を 成 す の 故 に 　 師 は 常 に 賢 な る 弟 子 に 良 く し て 　 愚 な る 者 に 良 か ら ざ る な り ０３ 師 に 於 お い て 成 る か ０３ 道 は 必 ず し も 得 と く を 以 っ て せ ず ０１ 江 木 君 晋 戈 を 送 る の 序

↓読み下し（２／５）

自 み ず か ら 昏 こ ん よ り 晨 し ん に 達 し 　 未 だ 嘗 っ て 安 席 に 寝 い ね ず ２０ 或 い は 得 せ ざ る 有 ら ば 　 則 ち 更 に 互 い に 論 ろ ん 薢 か い し ２０ 曲 き ょ く 説 せ つ を 排 し 　 正 に 一 帰 す る を 説 く 有 り 　 義 を 軽 ん ず れ ば 則 ち 必 ず 人 情 を 原 も と と し 天 理 に 順 し た が い 　 以 っ て 聖 意 の 所 在 を 求 む 　 　 文 章 を 作 る を 喜 び 　 最 も 力 を 用 い る は 　 六 り く 経 け い 及 び 言 論 を 折 衝 し １７ 我 わ れ 曽 っ て 晋 戈 の 所 為 を 観 る に １７ 一 言 以 っ て 我 を し て 贈 る 乎 か １６ 遂 に 長 別 と 為 な る １６ 家 の 多 難 に 遭 い て 　 轅 え ん 復 ま た 東 に 復 す 可 べ か ら ず １５ 是 こ こ に 於 て か 　 書 を 致 し て 言 う 有 り １５ 晋 戈 に 非 あ ら ざ れ ば 能 く 之 を 視 る 者 無 し １４ 寡 婦 幼 よ う 姪 て つ は 遺 業 を 挙 げ る 能 あ た わ ず １３ 至 れ ば 則 ち 己 に 斂 れ ん 葬 そ う す １３ 夕 べ 乃 ち 巻 を 投 じ 軽 装 し て 病 を 訪 う

↓読み下し（３／５）

３２ 晋 戈 は 則 ち 尊 志 の 講 習 に 於 る や 　 至 っ て 明 清 に し て 　 諸 儒 の 言 を 把 は 羅 ら 剔 て っ 抉 け つ し 孫 毫 も 遺 さ ず ３０ 山 陽 先 生 の 詩 文 は 相 一 代 に 標 ひ ょ う 率 り つ し て 　 経 に 於 て も 甚 じ ん 醉 す い を 求 め ず ３０ 天 也 や 　 夫 そ れ 変 に 於 て 長 じ て 学 成 り 相 変 る を 智 し る ２９ 晋 戈 と 我 と は 変 を 以 っ て 合 い 　 今 又 変 を 以 っ て 離 は な る ２８ 師 の 歿 は 弟 子 莫 ば く 大 だ い の 変 也 な り ２７ 縦 た と え 今 能 く 来 り て も 　 豈 我 と 同 席 し 黌 こ う を 共 に し て 　 切 瑳 に 相 成 る 乎 か ２６ 先 生 歿 せ ざ れ ば 　 其 の 東 に 来 る を 應 ず る 乎 か ２６ 先 生 歿 し て 東 ひ が し す ２５ 晋 戈 初 め 京 け い 師 し の 山 陽 頼 先 生 に 従 い て 學 ぶ ２４ 然 う し て 一 旦 局 す れ ば 纏 て ん 綿 め ん 　 豪 ご う 累 る い を 促 が し 其 の 為 た め 恨 は 何 か す 可 く か 測 る 可 き 也 な り ２３ 沾 て ん 々 て ん と し て 自 ら 喜 ぶ 者 也 ２３ 一 経 を 明 ら か に し 　 一 藝 に 通 ず る に 非 あ ら ず ２２ 必 ず 群 ぐ ん 傑 け つ と 並 び 　 天 下 に 馳 驅 す る を 欲 す る な り

↓読み下し（４／５）

４１ 況 い わ ん や 卓 た く 犖 ら く の 才 　 聡 明 の 資 を 以 っ て 　 之 を 信 ず る 篤 く 　 之 を 求 む る 敏 な り ４０ 年 旦 未 い ま だ 家 の 己 れ 有 る を 知 ら ず ４０ 兄 亦 之 を 為 な す を 楽 し む ３９ 家 を 挙 げ て 兄 に 托 し て 　 衣 に 食 に も 　 逆 旅 に 於 て も 費 つ い や す 者 凡 す べ て 　 之 の 兄 に 費 す ３８ 晋 戈 は 則 す な わ ち 然 ら ず ３８ 此 か か る の 者 　 以 っ て 然 る か ３７ 雑 然 と し て 人 　 窮 約 に 處 お り 　 終 日 之 を 役 し 奔 走 し 　 衣 食 は 得 ず し て 従 事 す ３６ 客 の 言 に 勝 ま さ る 乎 か ３６ 其 の 衣 服 は 租 承 に し て 甚 は な は だ し く は 修 め ず ３５ 是 れ 其 れ 変 ら ざ る 者 也 な り ３４ 其 の 相 詩 父 務 む 踏 と う の 其 説 は 　 最 も 論 策 に 長 ず ３４ 是 れ 其 れ 　 先 師 と と も に 変 り 者 也 な り

↓読み下し（５／５）

４６ 　 蓮 池 　 宮 み や 部 べ 貞 　 拝 撰 ４６ 天 保 丁 ひ の と 酉 と り 五 月 ４５ 遂 つ い に 書 し て 以 っ て 其 の 帰 に 贈 る ４５ 而 し て 所 師 無 き 乎 や と ４４ 轅 え ん に し て 東 す る 可 べ か ら ず ４４ 猶 な お 何 ぞ 恨 み ん ４３ 其 の 有 ゆ う の 盡 つ き ざ る 者 は 　 之 を 六 経 に 求 む れ ば 則 ち 　 師 に 余 る も の 有 り ４２ 十 数 年 の 功 の 得 る 所 　 已 す で に 多 き な り

大　意

↓姓名印	↓雅号印
宮 北 氏 渓	君 貞 頤 字

↓遊印

○ 閑 堂

訳　注
０１	江木君晋戈	江木君晋戈は江木鰐水のこと
０７	六経（りくけい）	易経・書経・詩経・春秋・礼記（らいき）・樂記のこと
０７	周孔（しゅうこう）	周公と老子と。 周公とは周の武王の弟・周公旦、武王を助けて紂王を伐ち周室の基礎を固めた。儒教で聖人の一人とされている。
０９	仲尼（ちゅうに）	孔子の字
０９	孟軻（もうか）	孟軻は孟子のこと、軻は孟子の諱
１２	五十川義集（いかがわ・ぎしゅう）	江木鰐水の義父
１６	轅（えん）	車のながえ、旅すること
２１	論薢	－
２１	昏（こん）	くらい
２１	晨（しん）	あした
２３	沾々（てんてん）	外面を整える、軽薄なさま、風の吹くさま
２４	纏綿（てんめん）	いりくんだこと
２５	山陽頼先生	頼山陽のこと
３１	標率（ひょうりつ）	めだちひきいること
３２	甚醉（じんすい）	甚だしく酔わすこと
３３	把羅剔抉（はら・てっけつ）	他人の欠点をあばきだすこと
３７	窮約（きゅうやく）	貧しいこと、不如意なこと
４０	逆旅（げきりょ）	やどや、旅館。逆は迎、旅人を迎える意
４１	卓犖（たくらく）	抜き出てすぐれていること、卓越
４６	天保丁酉（てんぽう・ひのと・とり）	ここでは天保８年（１８３７年）のこと
４６	蓮池（はすいけ）	蓮池は肥前・蓮池藩（佐賀藩支藩）のこと
４６	宮部貞（みやべ・てい）	－
◎	◎	◎
－	（姓名印）北渓宮氏	－
－	（雅号印）貞字君頤	貞は宮部貞のこと、君頤は宮部貞の字か
－	（遊印）○閑堂	－

未装