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フランス文学者、詩人、早稲田大学文学部教授 | |||||||||
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経 歴 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
生:明治43年(1910年)10月17日、広島県三原市東町生まれ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
没:昭和57年(1982年)7月31日、脳腫瘍のため没、享年71歳 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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『福山の文学(第5集)ふくやま文学館所蔵資料紹介 −井伏鱒二・福原麟太郎・小山祐士・木下夕爾・村上菊一郎小伝−』より |
明治43年(1910年)10月に、現三原市東町で村上忠造、盛子の長男として生まれた。 一家は4代続いた造り酒屋であったが、6歳の時ある事情で父が破産し、家は親類の手に渡り一家で上京。 本人は広島県立女子師範学校附属小学校から東京の小学校に移り、そこを卒業すると同時に一家で三原に帰り、翌大正13年(1924年)に、福山中学校(誠之館)に入学した。 かって絵を学んだこともある父の影響で、一時は画家を志したが、次第に文学に心をひかれるようになった。 そして、中学2年次から、毎年校友会誌『誠之』に、随筆、詩、短歌を発表している。 また、弁論部に属し、4年次には、愛知県岡崎市の全国弁論大会に出場して、2等に入賞した。 応援団の団長も務めた。 成績は優秀で、2年次に1番、卒業時に16番であった。 昭和5年(1930年)早稲田第二高等学院文科に入学し、ここでも『校友会誌』にいくつかの詩を発表している。 2年後、早大文学部仏文科に進学、吉江喬松(たかまつ)、西条八十(やそ)、山内義雄らの諸先生の薫陶を受けた。 とくに、山内義雄には目をかけられた。 大学1年次には、柴山教枝と結婚。2年次には、級友11人と同人誌『ヴァリエテ』を創刊。 以後、この雑誌に、ボードレール、フロベール、ジイド、シュランベルジュなどの翻訳を載せた。 これらの仕事は、西条八十にほめられたという。 昭和10年(1935年)に大学を卒業すると、私立フランス語学校に出講するかたわら、訳業に専念し、翌年の4月と6月に、ボードレールの『巴里(パリ)の悒鬱(ゆううつ)』(世界名作文庫)と、『悪の華』(版画荘)を翻訳出版した。 文学社会へのいち早い出発である。 昭和11年(1936年)には、二人の友人と同人誌『肖像』を出して、創作にも意欲を出すが、生活には困窮した。 翌昭和12年(1937年)には、商工省貿易局嘱託となり、生活を安定させ、以後『文芸汎論』、『四季』、『改造』などの著名雑誌に、翻訳詩、随筆などを掲載、新進の翻訳家・詩人として知られるようになった。 そして、太平洋戦争開始の昭和16年(1941年)には、ボードレール『散文詩』(青磁社)、第一詩集『夏の鶯(うぐいす)』(青磁社)、編集本『仏蘭西(フランス)詩集』(青磁社)の3冊を刊行した。 この時期としては、なかなかの活躍ぶりと言ってよいだろう。(磯貝英夫、ふくやま文学館館長) 昭和16年(1941年)12月、「外務書記生西貢(サイゴン)在勤を命ず」の辞令を受けて、サイゴンに赴任した。 外務書記生としての業務は多忙であったが、小旅行や酒場での憩い、また古本屋に出かけては、ランボー、ヴィヨン、ヴェルレーヌ、ロチなどの多数の本を購入している。(岩崎文人、ふくやま文学館相談員) サイゴンでの勤務を終え、昭和18年(1943年)8月に帰国し、以後大東亜省に勤めたが、1年足らずで退職し、昭和19年(1944年)5月に映画配給会社に入社し、その南方局調査部で仕事をした。 戦局は次第に切迫し、国粋思潮一辺倒のなかで、翻訳の仕事はほとんど困難となった。 昭和20年(1945年)7月15日に応召し、広島・福山の部隊に所属したが、8月15日敗戦。召集解除となって三原の郷里に帰ったのは8月下旬であった。(磯貝英夫) 彼が敗戦直後の郷里に貢献した文化的業績は、小さくない。敗戦直後の10月15日、三原工業学校教頭に就任し、翌昭和21年(1946年)には、三原市立図書館長となった。 こうした公的な職に加えて、中井正文、井上究一郎、田辺耕一郎らと広島文学者会を結成し、季刊誌『広島文学』を発行、戦後の地方文化出版の早い出発を担うとともに、三原はもとより、尾道、福山、広島などで開催された講演会、座談会に数多く出席し、地方文化の隆盛に大きな役割を果たした。 深安郡加茂村に疎開していた井伏鱒二、大陸から帰還した笠岡の木山捷平、玉島に疎開していた小山祐士、倉敷に疎開中の藤原審爾らと盛んに交流し、文化的香りに渇していた精神を癒したのも、このころのことである。ボードレール、フローベルの翻訳に専念するために、図書館長の職を退いたのは、昭和23年(1948年)5月であった。(岩崎文人) それから1年後の昭和24年(1949年)4月、恩師山内義雄らの推挙で、母校早稲田大学文学部専任講師となった。 以後、彼はこの職に落ち着き、昭和27年(1952年)助教授、昭和32年(1957年)教授と進み、70歳定年の昭和56年(1981年)まで勤めあげた。同年同大学名誉教授となる。病没は、その翌年の昭和57年(1982年)7月である。享年71歳。もう生活の波瀾(はらん)はなく、目立つ出来ごとは3度の外遊程度である。 翻訳では、この時期には小説にまで進んで、フロベール、ドーデ、メリメ、ロマン・ロラン、ジイドなどの名作を訳出し、『愛の詩集』『四季の名詩』などの近代名詩鑑賞では、学匠ぶらない、平明、柔軟な筆を振るい、そうした仕事のほかに詩集1冊、随筆集2冊を刊行している。 東京オリンピックが開催された昭和39年(1964年)4月、彼は半年間のフランス出張が認められた。パリに腰を落ち着けて、多くの文化遺跡や、親しんできた文学者の足跡を訪ね、またヨーロッパ各国にも足を延ばしたりして、ゆったりとした日を送った。帰国は10月である。 帰国後、その紀行文を『宴(うたげ)』(連載)その他の雑誌に発表し、のちに随筆集『マロニエの葉』に収録している。また彼は、昭和52年(1977年)4〜5月にも、2週間パリに出張滞在し、定年の昭和56年(1981年)7月には、10日間、ゴーギャンゆかりのタヒチ島へ旅行している。 彼の仕事の本命は、訳詩である。 とくにボードレール(『巴里の悒鬱』、『悪の華』)であるが、ランボーについても『ランボオ詩抄』、『ランボー詩集』(『ランボー全集』1)などを刊行、ほかには、ポール・フォールの翻訳が多い。 ヴェルレーヌについては、早く『ヴェルレーヌ艶詩集』を出しているが、とくに晩年に打ち込んで、多くの訳稿を残しており、死後刊行の『村上菊一郎訳詩集』に収録された。 村上訳詩の特色は、平明で、気取らず、しかも、リズミカルな美しさを持っているところにある。 散文作品の翻訳書には、フロベール『ヴォバリー夫人』『三つの物語』、ドーデ『風車小屋便り』『アルルの女』、ピエール・ロチ『秋の日本』、ロマン・ロラン『ジャン・クリストフ』(8冊)、アンドレ・ジイド『狭き門』などがある。(磯貝英夫) 彼の人となりは、象牙の塔に閉じこもっているという人ではなかった。飾らないエッセー、難解な語句を避けながら、叙情的な詩語を追及し続けた足跡によく表れているように、多くの人に愛された風雅の人であった。 ただ、多趣味の人ではなかったようである。 書物を買うこと、そして、終生酒を愛した。 加えて言えば、旅と草木を愛した。 海外旅行はもとより、日本での学会出席ごとに、その地の名所旧跡を訪ねてまわり、同僚とのドライブを楽しんだ。 自宅の庭にも、別荘にも、気に入った花・木を植え、愛でたという。(岩崎文人) (出典1) 石井和佳(昭和25年卒) |
誠之館所蔵品 | ||||
管理 | 氏 名 | 名 称 | 制作/発行 | 日 付 |
02806 | 村上菊一郎 著 福山中学校誠之会 編 |
「休暇中の一日」 『誠之(第30号)』、45頁 |
福山中学校誠之会 | 大正14年 |
02806 | 村上菊一郎 著 福山中学校誠之会 編 |
「悲しい夕」 『誠之(第31号)』、46頁 |
福山中学校誠之会 | 大正15年 |
02807 | 村上菊一郎 著 広島県立福山中学校誠之会 編 |
「秋二題」 『誠之(第32号)』、57頁 |
広島県立福山中学校誠之会 | 昭和2年 |
02807 | 村上菊一郎 著 広島県立福山誠之館中学校誠之会 編 |
「修学旅行記(1)」 『誠之(第33号)』、31頁 |
広島県立福山誠之館中学校誠之会 | 昭和3年 |
02807 | 村上菊一郎 著 広島県立福山誠之館中学校誠之会 編 |
「左ぎっちょ」 『誠之(第33号)』、47頁 |
広島県立福山誠之館中学校誠之会 | 昭和3年 |
02807 | 村上菊一郎 著 広島県立福山誠之館中学校誠之会 編 |
「春の気配のよくわかる日」 『誠之(第34号)』、27頁 |
広島県立福山誠之館中学校誠之会 | 昭和4年 |
02807 | 村上菊一郎 著 広島県立福山誠之館中学校誠之会 編 |
「海の書信」ほか 『誠之(第34号)』、35頁 |
広島県立福山誠之館中学校誠之会 | 昭和4年 |
04898 | 村上菊一郎 著 | 随筆集『マロニエの葉』 | 現文社 | 昭和42年 |
05227 | 村上菊一郎 著 | 随筆集『ランボーの故郷』 | 小沢書店 | 昭和55年 |
05228 | 村上菊一郎 著 | 『南果集 村上菊一郎詩歌集』 | 村上教枝 | 昭和58年 |
03909 | 村上菊一郎 訳 | 『村上菊一郎訳詩集』 | 教育出版センター | 昭和61年 |
◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
02060 | 村上菊一郎 著 福山誠之館同窓会 編 |
「母校の思い出」 『懐古−誠之館時代の思い出−』、116頁 |
福山誠之館同窓会 | 昭和58年 |
05535 | ふくやま文学館 編 | 『福山の文学第5集 ふくやま文学館所蔵資料紹介−井伏鱒二・福原麟太郎・小山祐士・木下夕爾・村上菊一郎小伝−』 | ふくやま文学館 | 平成16年 |
05536 | ふくやま文学館 編 | 『ふくやま文学館開館十周年記念 福山地方の詩と童謡』 | ふくやま文学館 | 平成21年 |
05541 | ふくやま文学館 編 | 『福山の文学第10集 ふくやま文学館所蔵資料シリーズ 村上菊一郎訳 ランボー「地獄の季節」』 | ふくやま文学館 | 平成21年 |
探しています | |||||
書 名 | 著者 | 訳者 | 制作/発行 | 日 付 | コメント |
訳詩集『巴里の悒鬱(ぱりの・ゆううつ)』(世界名作文庫) | ボードレール | 村上菊一郎 | − | 昭和11年 | − |
訳詩集『悪の華』 | ボードレール | 村上菊一郎 | 版画荘 | 昭和11年 | − |
訳詩集『散文詩』 | ボードレール | 村上菊一郎 | 青磁社 | 昭和16年 | − |
詩集『夏の鶯(なつの・うぐいす)』(第1詩集) | 村上菊一郎 | − | 青磁社 | 昭和16年 | 200部 |
訳詩集『仏蘭西(フランス)詩集』 | (編集本) | − | 青磁社 | 昭和16年 | − |
散文翻訳書『秋の日本』 | ピエール・ロチ | 村上菊一郎 | 青磁社 | 昭和17年 | 吉永清共訳 |
詩集『夏の鶯(なつの・うぐいす)』(第1詩集)復刻版 | 村上菊一郎 | − | − | 昭和21年 | 300部 |
訳詩集『ランボオ詩鈔』 | ランボー | 村上菊一郎 | 浮城書房 | 昭和23年 | − |
詩集『茅花集(つばな・しゅう)』(第2詩集) | 村上菊一郎 | − | 浮城書房 | 昭和24年 | 75部 |
散文翻訳書『ボヴァリー夫人』 | フロベール | 村上菊一郎 | 思索社 | 昭和24年 | − |
散文翻訳書『風車小屋便り』 | ドーデ | 村上菊一郎 | 蒼樹社 | 昭和24年 | − |
詩集『村上菊一郎全詩歌集』 | 村上菊一郎 | − | − | 平成2年 | 没後刊行 |
『イギリスの君主制』 | 村上菊一郎 | − | − | − | − |
訳詩集『ランボー詩集』(ランボー全集1) | ランボー | 村上菊一郎 | − | − | − |
『ボードレール詩集』(角川版世界の詩集2) | ボードレール | 村上菊一郎 | 角川書店 | − | − |
訳詩集『ヴェルレーヌ艶詩集』 | ヴェルレーヌ | 村上菊一郎 | − | − | − |
訳詩集『聖なる町 京都』 | ピエール・ロチ | 村上菊一郎 | − | − | − |
『愛の詩集』 | 村上菊一郎 | − | 二見書房 | − | 編著書 |
訳詩集『四季の名詩』 | − | 村上菊一郎 | − | − | − |
散文翻訳書『三つの物語』 | フロベール | 村上菊一郎 | − | − | − |
散文翻訳書『アルルの女』 | ドーデ | 村上菊一郎 | − | − | − |
散文翻訳書『ジャン・クリストフ』 | ロマン・ロラン | 村上菊一郎 | − | − | 8冊 |
散文翻訳書『狭き門』 | アンドレ・ジイド | 村上菊一郎 | − | − | − |
散文翻訳書『イギリスの君主制』 | − | 村上菊一郎 | − | − | − |
出典1:『福山の文学(第5集)ふくやま文学館所蔵資料紹介 −井伏鱒二・福原麟太郎・小山祐士・木下夕爾・村上菊一郎小伝−』、88頁、ふくやま文学館編刊、2004年3月31日 出典2:『懐古−誠之館時代の思い出−』、116頁、「母校の思い出」、村上菊一郎、福山誠之館同窓会編刊、昭和58年5月15日 |
関連情報1:HP「井伏鱒二:荻窪風土記:阿佐ヶ谷文士==」 |
2005年1月28日更新●2005年4月22日更新:本文、著書●2005年11月8日更新:関連情報●2006年6月29日更新:タイトル、所蔵品●2007年8月10日更新:関係資料●2008年3月24日更新:経歴、本文●2008年3月25日更新:経歴、著作翻訳書●2008年10月24日更新:誠之館所蔵品●2008年12月5日更新:著作翻訳書、誠之館所蔵品●2008年12月15日更新:経歴、著書・翻訳書、誠之館所蔵品●2008年12月16日更新:経歴、本文●2008年12月17日更新:経歴●2008年10月28日更新:本文●2009年11月19日更新:誠之館所蔵品●2009年11月20日更新:経歴、著書・翻訳書●2009年11月25日更新:誠之館所蔵品●2009年12月15日更新:著書・翻訳書、誠之館所蔵品●2010年4月15日更新:関連情報●2010年4月15日更新:関連情報、探しています●2011年8月17日更新:誠之館所蔵品、関連情報● |